今年度第3回の研究例会は2名の発表者に、現地の教育事情や日本語教育の実践についてお話していただきました。また第三部としてフォーラム立ち上げの呼びかけを行いました。以下概要、Youtube動画をご参考ください。
<第一部 概要>
『日本におけるJSL話者の理想と現実~海外日本語教師の視点から~』
発表者:星享(ほし・とおる) 福井ランゲージアカデミー前校長、元国際交流基金海外派遣日本語教育専門家。バングラデシュ、マレーシア、タイ、韓国、ドイツ、フィリピンでの活動経験あり。国内では上記機関での日本語指導のほか、石川県地域日本語教室調査担当を務める。(2011年から2013年)
進 行:近藤(当学会世話人)
内 容:
「日本語教育推進法」が成立し、日本語能力の「参照枠」や日本語教師の国家資格化など、様々な施策が論じられている。また推進法の施行と前後して「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が策定され、日本社会が多文化共生社会へと(今度こそ)大きく転換していこうとしている。だが、実際のところ、このトップダウンの「外国人材受け入れ政策」はどこまで、共生の「現場」に届いているのであろうか。これによって彼らと我々の前途には明るい未来がやってくるのだろうか。
コロナ禍が収束次第、さらなる受け入れ拡大が見込まれる、こうした「外国人材」や在住外国人など、いわゆる「JSL話者」の置かれた現状について、海外を知る日本語教師(「海外日本語教師」)すなわち、彼らの来日前の姿を知り、同時にマイノリティの視点も持つことのできる日本語教師は、彼ら「JSL話者」の本質的な思いと困難さを理解することができるのではないか。現場で求められているのは「日本語教育」だけなのか、欠けているピースは何かという問題提起とともに、今、「海外日本語教師」に求められる役割を考えてみたい。
<第二部 概要>
『スリランカの日本語教育における学習環境の広がりと今後の課題』
発表者:ウダーニ・バーラスールヤ(ケラニア大学人文学部非常勤講師、宇都宮大学大学院地域創生科学研究科修士課程)
進 行:吉田(当学会世話人)
内 容: 1. 日本語教育史と実施状況 2. 教育段階別の状況 3. 機械翻訳とは 4. 日本のMTによる外国語教育(英語) 5. シンハラ語とMT 6. スリランカでのMTを使用した日本語教育の課題
参 考:学会誌第10号(2020.06)【ディスカッション】学習者から教師へ ~スリランカ人日本語教師に聞く~
<第三部 概要>
『フォーラム立ち上げの呼びかけ』
進 行:三原(当学会世話人)・星
内 容: 本学会では、新年度からサイト上にフォーラムを開設することとしました。その目的は、設立趣旨に掲げられている、海外の国や地域の日本語教育の歴史や実情、海外の日本語教育現場が抱えているさまざまな課題を共有し、会員間のコミュニケーションや協働の入口となることです。 参加者の意見によって新規にテーマを設定したり、新規フォーラムを開設したりしたいと思います。
▷テーマ別ディスカッション たとえば:「マイノリティー論」、「日本語教育の未来」など
▷リレーエッセイ:忘れられないあの授業 たとえば:「失敗談・成功例など、授業レポート」など を当初開設し、その他、「外国語習得体験」「各国グルメ版オデッセイ」「人物記」なども続々開設検討中です。ご意見をお聞かせください。 また、名称(「K G N Kフォーラム(仮)」)も募集します。
今年度第2回の研究例会は「フランスの日本語教育」をテーマに、当地の日本語教育に関われている3名の方を発表者としてお迎えし、現地の教育事情や日本語教育の実践についてお話していただきました。
第一部 フランスの日本語教育
発表者:ルシーニュ・フレデリック LESIGNE Frédéric
(ストラスブール市ジャン・モネ高等学校)
ルシーニュ=オドリ・エヴリン LESIGNE-AUDOLY Evelyne
(ストラスブール大学)
進行:蟻末淳(当学会世話人)
<概要>
本発表では、フランスの教育機関(中等・高等)における日本語教育の全体像や現場から見た現状を紹介した上で、直面している課題と今後の展望を述べる。
フランスでは日本語学習者数は約2.4 万人に上り、西欧で1位を占めている。この内訳は、全学習者数の約23%が中等教育機関、約51%が高等教育機関であり、学校教育機関で75%弱を占めている。この数字は、高等教育機関が占める割合の高さを示しているものの、その反面、中等教育とのアンバランスが著しいことも示している。
なお、現場で教えている教師達は現状について不安を抱くことが多く、とりわけ、高等教育では就職率の問題、中等教育では高校の教育システム改革に伴う、学習者数減少の問題や学習評価の問題などが挙げられる。また、中学校から高等学校への学習の一貫性も改善するべきだと考える。
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▼参考
第二部 音声の理解と意識化をめざした日本語音声教育実践の成果と課題(動画 約80分)
発表者:大戸雄太郎
東京国際大学(ボルドー・モンテーニュ大学(2018-2020 年))
進 行:三原龍志(当学会世話人)
<概要>
日本語学習者の音声に対して働きかけを行う日本語音声教育は、従来の音声習得研究などをどのように反映した実践を行うかという点で課題が残されている。
加えて、音声教育に関する実践・実践研究は質、量ともに不足しており、海外の教育環境においては特に実践例が少ないと言える。
本研究は、筆者が2019 年にフランスの大学で行った音声教育実践をフィールドとして、実践を受講した日本語学習者の発音の変化を明らかにする。そこから、日本語音声教育実践の成果と課題を提示することを目指す研究である。
本研究の結果から、音声教育実践を通して、日本語学習者が発音の意識化を促され、発音を変化させていることが分かった。本研究の事例のように、日本語のインプット量が少ない海外の学習者に対してこそ、初級段階から明示的な音声教育が必要であるが、十分に行われているとは言い難い。本研究は、日本語の音声に関する知識を与えて意識化を促し、リソースを提供して発音学習をサポートする音声教育の意義を提示する。
第1回目の研究例会のテーマは「バングラデシュにおける日本語教育」です。そこで今回はバングラデシュの日本語教育において活躍されている2名をゲストに迎え、現地の教育事情や、日本語教育の実践(B-JETプログラム)についてお話いただきました。当例会もバングラデシュをテーマに取り上げるのは初めてのことでしたが、バングラデシュの日本語教育の歩みから、直近の日本語教育の実践まで、大変分かりやすくご紹介いただきました。
第一部 バングラデシュにおける日本語教育~50年間の歩みと課題~(動画
約75分)
ゲスト:アラム モハメッド
アンサルル(ダッカ大学
現代言語研究所)
指定討論:鵜澤威夫(当学会世話人)
進 行:近藤正憲(当学会世話人)
<概要>
バングラデシュは1971年に独立し、翌年からダッカ大学を含めて、日本語教育が導入された。ここ半世紀で日本語教育に様々な課題を乗り越えて今日の状態に至った。近年、IT技術者や技能実習生の送り出しによって、大勢の若者にとって日本語教育は「単なる興味」から「注目言語」になっており、その影響は日本語能力試験の受験者数にも反映されている。また、2016年の「バングラデシュ日本語教師会」の設立や、2017年のダッカ大学における「日本言語文化」専攻課程の設立が、バングラデシュの日本語教育に最も大きな出来事と考えられる。教師会は定期的な勉強会や日本語教育セミナーなどを実施しているが、目標である国内教師研修がまだ実施できていないことと、地方の教師たちとのネットワークがまだできていないことが大きな課題である。今回はこのようなバングラデシュの50年にわたる日本語教育の功績と課題に触れながら、今後の取り組みについて考えてみたい。
第二部 B-JET 日本語教育プログラムにおける教材開発と日本語教育的課題(動画 約86分)
ゲスト:江口清子さん(大阪大学大学院言語文化研究科)
指定討論:吉田一彦(当学会世話人)
進 行:三原龍志(当学会世話人)
<概要>
本報告では、B-JET
(Bangladesh-Japan ICT Engineers’ Training Program) で行われた日本語教育について、そこで使用された教材作成プロセスに焦点を当てて紹介した上で、今後、日本語教育が取り組むべき課題について検討する。
B-JETとは、JICAの技術協力プロジェクトの一環として2017年11月から3年間行われた、バングラデシュICT人材向けの日本就職をターゲットとした短期研修である。研修では、ビジネスマナーやICTの授業も行われたが、主軸は日本語教育であった。日本のICT市場でICTエンジニアとして働くことができる最低限の日本語能力を身につけることを目指した。学習者のニーズに合う教材を作成し、短期間で最大限効果があげられるようなカリキュラムを構築し、授業を実践し、実際に効果をあげた。しかし一方で、当地の日本語教育への貢献という観点からは課題が多く残った。この課題解決のために、今後取り組むべきことは何かを考えてみたい。